「拓斗君に勉強教えてもらうようになって、なんかね、うまく言えないんだけど、勉強の進め方っていうのかな、コツがわかってきた気がして、このまま頑張ったら、まぁまぁの大学に行けそうな気がするのよ。両親も賛成してくれてるし」

「そーなんだ! うん、それもいいと思うよ。茜も予備校に通ったら?」

「そうね。拓斗君と同じコースは無理だけど、一緒に通えたらうれしいから考えてみようかな。三年になったらクラス替えもあるし、離れる確率って高いもんね」

 確かにそうだった。学年が変わればクラス替えが行われる。この学校の進学率は高くないが、三年から一応のこと一クラスだけ進学コースが設けられるのだ。

 拓斗は間違いなくこの進学コースだろう。同じクラスになれないことは明らかだった。

「茜も目指せばいいじゃないか。進学クラスに入れるかもよ?」
「絶対ムリ! でもね、専門学校も捨てがたいの。だから思案中。申請は年が明けてからだから、まだ時間もあるし、よく考える」
「そうだね。焦ることじゃないし」
「うん」

 見つめ合い、微笑みあう。

 お互いの想いを感じながら、二人だけの時間を満喫していた。


 拓斗と茜が初めてのキスを交わしてから二ヶ月ぐらいが経ったが、茜は未だ進路を決めかねていた。

 カレンダーはようやく十二月に入り、今年も後わずか。

 年が明ければ担任に一回目の進路希望を伝えなければならない。さらに進学するなら予備校に行くことも考えたい。茜は週二回、拓斗に勉強を教えてもらいながら思案していた。

 今日も、いつものファミレスで二時間ばかりの勉強タイムを過ごした。

 拓斗に褒めてほしいばかりにしっかり勉強している甲斐もあり、茜は勉強に対して面白いと思うようになっていた。

「茜、送らなくて大丈夫?」
「大丈夫よ。じゃ、また明日ね」

 ニッコリと笑う茜に照れつつ、うん、と頷く。

「また明日」

 そう答えた拓斗に、突然茜が体を寄せ、耳元で囁いた。

「…………」

 茜は顔を真っ赤にして満面の笑みを浮かべると、手を振って帰っていった。

 ――拓斗君、好き。

(俺もって、言いそびれた! 次は俺が先に言うから!)

 そんな幸せなそうな二人に気づき、見ている者がいる。

 ファミレスで二人が勉強している姿を見つけ、出てくるまで眺めていたなど知る由もない。

 トラブルが二人に起きたのは、それから間もなくだった。