また一歩、二人の関係が進展した。

 キスは甘酸っぱく、二人の心を強く結びつけた。お互いにお互いを『特別な存在』と感じ、拓斗は茜を、茜は拓斗を『自分のもの』と思うようになった。

 二人は名実共に、恋人同士になったのだ。

「学校でも拓斗君って呼びそうになるの」

 うれしそうに話す茜の笑顔が愛しい。

 そう思えば思うほど、もっと触れたい、もっと感じたいと願ってしまう。

 拓斗はなんとも言えない衝動を感じて戸惑っていた。

「拓斗君?」
「あ、イヤ、なんでもない」

 そして同時に『女は手がかかる』とも思う。『なんでもない』と答えると、途端に茜の顔が曇るからだ。瞳が不安の色に染まる。

 しかしながら、その『手がかかる』ことを拓斗は良いことだと思った。想ってくれているからこその不安だから、と。

「じゃあ、答える。今までは一歩だけ進んだ友達だったからそれほど気にならなかったけど、今は誰かに取られたらどうしようって思うんだ。こんな気持ちも初めてだから、すごく戸惑ってる」

 ウソだ。

 この言葉自体は本当だが、衝動を感じて戸惑っている理由ではない。

 体が、特に下半身が疼いているのだから、求めているのは茜の体だということぐらいわかっている。

 戸惑っているのは、女の体を求める自分自身だ。

(どうしよう。なんか、その……)

 つきあい始めてまだ間がない。それに十七歳だ。そっちの知識が乏しい拓斗は、もし妊娠させてしまったら――などと思ってしまう。

 それでも十七歳の男の体は純粋に女の体を求めた。

(いや、心が伴ってないとダメだ。それにお互いが求めないと。俺の一方的な欲求だけで抱くのはイヤだ。俺はそんな軽い男じゃないから!)

「拓斗君?」
「茜は進学するの? 就職?」

 いきなり話を振られ、茜は驚いて目をパチパチさせた。

「え? あぁ、進路ね。専門学校に行こうかと思っていたんだけど、最近ちょっと気が変わってきて、思案中」
「どこの専門学校?」
「私ね、お料理好きだから、お料理関係の専門学校に行こうかと考えていたの。フレンチかパティシエか。でもね、普通の大学に進むのもいいかなぁって思い始めて」
「えっ! そうだったの? 料理得意だったんだ!?」
「その驚き方、心外」

 ムッとした顔がかわいい。だがそれは言わず、笑ってやり過ごした。