「あ、あの……」


ふと、背後から女性の声が聞こえた。

彼女の存在に気づいて、俺とアオは振り返る。

するとそこには、黒のロングTシャツを着たひとりの女子生徒がいた。


絹のような(つや)やかでサラサラとした、色素の薄い髪に、クリッとした二重の瞳。

華奢(きゃしゃ)な体格をしていて、俺の腕にぴったり収まりそうだ。

そんな彼女からは、キャンバスに付着した絵の具と同じ匂いが漂っていた。


「私の絵が、どうかしたの?」


絵の具を片手に、彼女は不思議そうにこちらを見つめる。

首をかしげると、その動きに合わせて、後ろでひとつにまとめられた髪が大きく揺れた。


――“私の絵”ってことは、この絵は彼女が描いたものなんだ。


俺たちにタメ口で話すということは、きっと先輩なのだろう。


「あの……もしかして、私の顔に絵の具か何かついてる!?」


彼女は、顔に絵の具がついているか心配そうに触りながら焦っている。


「いいえ、何もついてません!」


俺は彼女の誤解を解くために、すぐさま声を上げる。


「……そう、それならよかった」


彼女は胸に手を当てて、ホッと息を吐いた。

安心したような笑みを浮かべる彼女に胸が痛む。


――彼女に、本当のことを言わなくちゃ。