「桜庭さん」


行き場を失った私に声をかけてくれたのは――永瀬くんだった。


「やっぱりそうだ。ちょうど桜庭さんの姿が見えたので声をかけたんですけど……って――」


私の顔を見るなり、永瀬くんは驚いたように目を見開き、すぐにこちらへ駆け寄ってきた。


「――桜庭さん、どうしたんですか? なんで泣いて……」


しまった……。
こんな姿、誰にも見られたくなかったのに。


「その絵……俺が汚したやつですよね? もしかして、桜庭さんが泣いてる原因って、やっぱり……」


申し訳なさそうに目を伏せるた永瀬くんに、私は首を横に振った。


「違うの。汚れはちゃんと修正できたから、問題ないわ」

「じゃあ、どうして?」


その理由を永瀬くんに話したところで、何も解決しない。

だって、これは私自身の問題なのだから。

それに、また永瀬くんを困らせたり、九条くんみたいに怒らせたりするかもしれない。


「ごめんなさい……ホントになんでもないから、もう私に構わないで」


これ以上、誰かを傷つけたくない。