『――私はただ絵を描くのが好きなだけで、永瀬くんが思ってるような才能なんて持ってないよ』
……そっか。
桜庭さんが今スランプに陥っていると感じているのは、きっと彼女自身の力不足じゃなくて、周りのレベルが高いからなのだろう。
それでも、桜庭さんの絵が評価されるのは、純粋に絵を描くのが好きで、その気持ちが絵に表れていたからだ。
桜庭さんに伝えたいことがようやくわかったような気がする。
「ありがとうございます! それと、急用があるので、これで失礼しますっ!」
大地さんと大迫さんに手短にあいさつを済ませたあと、アオに声をかける。
「アオ、悪いけど先に帰っててくれ!」
「お、おい!? ハルッ!」
背後から呼びかけるアオの声が聞こえたけれど、俺は振り返ることなく桜庭さんのところへ向かった。



