「もしかして、なぎがこの絵をボツにしたいのは汚れてるからか?」
九条くんがキャンバスの斑点模様を指差して言う。
「これって、絵の具じゃないよな? まさか、誰かにイタズラされたのか!?」
これは……今朝、永瀬くんたちがつけたって言っていたものだ。
「違うよ、完全に私の不注意でついたものだから。それに、汚れてなくても、この絵はボツにするつもりだったの」
すると、九条くんの眉間にしわが寄った。
「それ、本気で言ってんのか?」
「……うん」
「そんなことする必要ないだろ! 誰がどう見たって完璧な桜並木の絵なんだから」
九条くんの言葉に、思わず息を呑む。
「そんなことないよ。私の絵よりも、九条くんの絵のほうが完璧に描けてる」
九条くんが描いているのはチューリップの風景画だ。
光と影のコントラストが絶妙で、花のグラデーションが鮮やかに際立っている。
こんなにも緻密に計算して描けるなんて。
私のように、ただ思いのままに感覚で描くのとは違う。
「私も、九条くんみたいに描けたら……もっと上手くなれるかもしれないのに」
そう呟いた瞬間――。



