❁
絵の知識がない俺でも、一瞬にして目を奪われた桜並木の絵。
そんな絵が描ける桜庭さんは、本当に絵を描く才能がある人だと思った。
有名な画家やその道のプロにも引けを取らない実力がある。
だから、自分を卑下する必要なんてないのに――。
桜庭さんのことを考えながら、本館にある教室へと向かう。
本館に入って階段を目指して歩いていた――そのとき。
玄関に飾られていた1枚の大きな絵が、俺の目に飛び込んできた。
青空の下、道に等間隔で植えられた桜の木々を背景に、ベンチに座っている“ひとりの女の子”。
絹糸のような茶褐色の髪が、桃色のグラデーションで描かれた無数の花びらとともになびいている。
そんな彼女が手に持っているのは、スケッチブックだ。
いったい彼女は“何”を描いているのだろうか。
彼女の視線の先を辿ってみると、そこには“ひとりの男の子”がいた。
“彼”はサッカーボールでリフティングをしている。
“彼女”がスケッチブックに描いているのは、“彼”なのだろう。
自然と想像力が膨らんで、この絵の世界にどんどん引きこまれていく。
絵の具で描かれているのに、写真のような躍動感。
まるで生きているようで、思わず息をのんでしまう。
自分の才能を爆発させたような、迫力のある絵。
この絵を誰が描いたのか、ひと目見ただけですぐに予想がついた。
絵の下に置かれた金色のプレートに目を向ける。



