絵の知識がない俺でも、一瞬にして目を奪われた桜並木の絵。

そんな絵が描ける桜庭さんは、本当に絵を描く才能がある人だと思った。

有名な画家やその道のプロにも引けを取らない実力がある。

だから、自分を卑下(ひげ)する必要なんてないのに――。


桜庭さんのことを考えながら、本館にある教室へと向かう。

本館に入って階段を目指して歩いていた――そのとき。

玄関に飾られていた1枚の大きな絵が、俺の目に飛び込んできた。


青空の下、道に等間隔で植えられた桜の木々を背景に、ベンチに座っている“ひとりの女の子”。

絹糸のような茶褐色(ちゃかっしょく)の髪が、桃色のグラデーションで描かれた無数の花びらとともになびいている。

そんな彼女が手に持っているのは、スケッチブックだ。

いったい彼女は“何”を描いているのだろうか。


彼女の視線の先を辿(たど)ってみると、そこには“ひとりの男の子”がいた。

“彼”はサッカーボールでリフティングをしている。

“彼女”がスケッチブックに描いているのは、“彼”なのだろう。


自然と想像力が膨らんで、この絵の世界にどんどん引きこまれていく。

絵の具で描かれているのに、写真のような躍動感(やくどうかん)

まるで生きているようで、思わず息をのんでしまう。

自分の才能を爆発させたような、迫力のある絵。


この絵を誰が描いたのか、ひと目見ただけですぐに予想がついた。

絵の下に置かれた金色のプレートに目を向ける。