二度目のマリッジリング

朝からずっと仕事をしていた人にさせるなんて、と萌音が口を開こうとすると諒に肩を抱かれ、リビングのソファまで連れて行かれる。

「いいからいいから。今日は作ってみたい料理があるんだ」

「……はい」

強い目で見つめられると断ることはできない。萌音が諦めて返事をすると、諒は満足そうに頷いてスーツから部屋着に着替え、エプロンをつけて料理を始めた。食材を切る音がリビングに響く。

買ったばかりの本を読んでいるフリをして、萌音はチラリと諒の方を見る。真剣な表情で料理をしている彼の左手の薬指にも、萌音とお揃いの銀色の指輪がある。そう、萌音と諒は夫婦だ。

(愛のない契約結婚だけど……)

萌音は自身の左手の薬指を見つめ、諒と結婚することになった日のことを思い出した。



萌音は七歳の頃、両親が交通事故で亡くなり、父方の祖父母に育てられた。お世辞にも裕福とは言えない家庭だったものの、両親の代わりにたくさんの愛情をもらった萌音にとって、祖父母は感謝してもしきれない存在である。