「今日は早かったんですね」

「思ったより早く商談がまとまってね。早く帰って来たんだ。トップがずっと仕事してたらみんな帰りにくいだろ?」

未だに緊張してしまう萌音に対し、男性ーーー花園諒(はなぞのりょう)はニコリと笑いかけながら言う。その笑みに胸がギュッと締め付けられる感覚を覚えていた萌音だったが、あることを思い出して諒に言った。

「あの、実はまだ夕食の準備ができてなくて……。すみません、すぐに作りますので」

普段諒が帰って来るのは、夜の十九時や二十時が多かった。こんなに早く帰って来るとは思っていなかったため、萌音は夕食の準備など下ごしらえすらしていない。

謝る萌音に対し、諒は少し驚いた顔をしたもののすぐに再び笑みを浮かべる。そして、少し俯きがちになってしまった萌音の頭に優しく触れ、言った。

「いつも萌音が作ってくれているんだから、今日は僕が料理作るよ。座ってて」

「で、ですが……」