帰りの時間になっても、雨は弱まることをせず。
 既に濡れている地面へ更に降り注いでいき、注意報が出るほどだった。



「気をつけて、寄り道せずに帰れよー」



 兼松先生の注意を最後に帰りのSHRは終わり、雑談しながら下駄箱へと向かっていた鞠と梨田。

 すると、他クラスの女子が数人で立ち話をしていて聞こえてきてしまった。



「え、紗耶が新を呼び出したの?」



 上履きを脱いだばかりの鞠が一瞬身動きを止めてしまうと、梨田もそれに気付いて複雑な表情を浮かべた。


 紗耶。どこかで聞いたことのある名前に、鞠の心拍数は少しずつ上昇する。
 確か美化委員でゴミ拾いをしていた時に、新に駆け寄ってきた他クラスの女の子。

 そうして紗耶の顔が浮かんだ鞠は、唇に力を入れながら自分の下駄箱に上履きと外靴を入れ替えた。

 しかし、女子たちの立ち話はなおも続けられて、終わる気配がない。



「間違いなく告白でしょ」
「この時期ってことは学祭一緒に回るため、だよね」
「うわー先越された〜」



 紗耶は、誰が見ても新への好意が悟られていた。
 もちろん鞠も、たった一回会話をしただけでそれを察したのだから、新自身も勘付いているはず。

 だけど彼には、好きな人が別にいて告白も済ませている。
 毎朝気持ちを確かめるために、メールを送るほどに好きな相手が。



(ファーストキスを奪いたいくらいに、新田くんは私のことが……)

「ま、振られても新とキスできるんなら損は無いよね〜」