「……ねえ鞠、雑念は一旦置いて」
「っえ」
「俺のことだけ見て」
「新くんだけ……?」
「俺の目を見て、今の気持ち聞かせて」
繋がれた手はそのままで、もう片方の手のひらが鞠の頬に添えられた。
目の前には新しかいなくて、それを邪魔する者も陰口を言う者もいない。
ただただ、いつも自分に優しくしてくれて、時には意地悪してくるけれど許してしまう。
同じ委員でクラスメイトの、人気者でかっこいい男の子。
だけど、それだけに留まらないことを鞠は気づいている。
「……本当は、もっと知りたい」
「……うん」
「よ、よく聴く音楽とか、苦手なものとか。新くんをたくさん知って、す、好きになりたい、と思ってるから」
ついに言葉にしてしまったという羞恥心と、緊張による心臓の爆音で押しつぶされるのを耐えるため。
鞠はグッと瞼を閉じた。
すると、頭上から降ってきた新の声は、明るいながらも言葉は悔しさを滲ませていて。
「え、まだその地点?」
「……ん? その地点とは?」
「今日のデートで鞠に“好き”って言わせたかったのに。“好きになりたい”って、これからってこと?」
「え、あの、友達としては好きだよ?」
「友達?」
「あ、いや、ごめん」
新の圧のかかった質問に負けた鞠は、下手な言い訳はやめて素直に謝ってしまった。
それを聞いた新が、重苦しいため息を漏らした後に気持ちを切り替えて鞠を見据える。
「まあ鞠の言う通り、中身も知らない男からグイグイこられても好きにはなれない気持ちはわかる」
「う……」
「俺は鞠のこと色々知ってるのにな、ネズミとゾンビが苦手とか、キス未経験とか」
「な! キスのことはいいでしょもう!」
結構前の話をされて鞠が顔を真っ赤にしながら怒っていると、突然繋いでいた手をグンと引き寄せられて。
バランスを崩した途端、新の胸へと飛び込んでいってしまった。
しかしこれは全て新の思惑通りで、呆気にとられる鞠の背中を大事そうに包み込む。



