新くんはファーストキスを奪いたい




 デートの最後を、子供じみた自分勝手な感情で台無しにしてしまった自覚はあった。

 その割りには、次に停車する駅で隣に座る新ともお別れだと思うと、何とも言えない寂しさが襲ってくる。


 こんなことでは、やはり普段から気持ちに余裕を持つ新と釣り合うはずもない。
 そう結論に至っては、また自分の心を締め付ける負の連鎖。

 鞠は気持ちが迷路に迷い込んだような感覚に陥って、出口も見えず心細くて悲しくて。
 せめて新を見送るまでは我慢しようと、溢れそうになる涙をグッと堪えた。


 やがて速度を落とした電車が、新の自宅がある駅ホームに侵入した。

 この駅の名前を見ると、椛のクレープ屋へ行った日のことを思い出す。
 新の手作りクレープが本当に美味しくて、以降仲良くなれるきっかけにもなった。

 しかし、そんな出来事はもう二度と起こらない。
 鞠はこんな自分に対して、新は確実に失望していると思っていたから。


 電車が完全に停車し、プシューと音を鳴らして扉を開けた。

 すると、降りるはずの新は俯いたまま立ちあがろうとせず。
 代わりにその手のひらが、隣に座る鞠の手を不安げに取る。



「っ⁉︎」
「……家まで、送る」
「え、でも新くんが遠回りになっ」
「それでもいいから、送る」



 表情の見えない新に戸惑いながらも、重なったその手が映画館の時とは違って冷たく感じた。

 やがて新を降ろさずに扉が閉まった電車は、再びゆっくりと速度を上げて。
 二人が通う高校前の駅を含め、ここから七駅先の鞠の自宅最寄駅に向かった。


 その間、不思議と気まずい空気は薄れていったものの、相変わらず会話を交わすことはなく。
 ただ一つ言えるのは、繋がれた手から“まだ一緒にいたい”という新の想いが伝わってきたような気がしたから。


 新の底知れぬ優しい想いが、鞠の心臓を高鳴らせて頬を赤く染めていく。