新くんはファーストキスを奪いたい




 鞠の心を振り向かせたくて、告白をしてデートにも誘った。
 可愛いと思った瞬間を大切にしたくて、素直な言葉で表現した。

 今日のデートで、少しは気持ちが揺らいでくれたら。
 願わくば、好きになってくれたらと思っていただけに。
 新の落胆は想像以上に大きかった。




 ガタンガタン……



 結局デートは終了し、そろそろオレンジ色に変わる太陽に照らされた帰りの電車に、二人は乗っていた。

 方向が一緒だから同じ電車に乗るのは仕方なかったが、映画館と同じように隣同士に座っていても会話は無し。

 気まずい空気がずっと流れている。しかし、そうさせたのは自分だと理解している鞠。
 先に新の降りる駅に到着するまでの辛抱だと言い聞かせて、入り乱れる自分の気持ちを整理した。



(私が彼女になったら、ハードル下げちゃうんだろうな)



 まだ新への想いも交際するかどうかも不明の中で、もしものことを考えた時。
 この程度でも新の彼女になれるんだ、なんて学校や街中で思われることに気がついた。

 それは新にとって良くない事のような気がして、鞠としても望んでいないこと。



(なんで私なんかのこと、好きなんて言うの……)



 俳優みたいなイケメンの新から初めてとなる告白を受ける、なんて想像も考えもしていなかったけれど。
 戸惑いつつも、嬉しさが込み上げたのは嘘じゃない。

 デート中も、映画でのミスを優しく許して笑ってくれたり。
 ゾンビ映画に怖がっていることを察して、手を繋いで安心させてくれた。



『初めてのデートが俺でよかったの?』



 そんな優しい新が、初めてのデートのお相手で良かったと本気で思っているから。



(だから、こんなに胸が痛むんだ……)