新くんはファーストキスを奪いたい




「案外ストーリー性もしっかりしていて面白かった」



 映画を見終わってエントランスを出た新が、上機嫌に感想を述べる中。
 その後ろを歩く鞠は、微かに頬を赤く染めながら俯いていた。


 新のおかげで苦手なゾンビ映画を最後まで観ることができた。

 正確にはその空間にただ居座った、という方が正しい気はするが、上映中はずっと手を繋いでいてくれて、怖さ半減ドキドキ倍増。

 やがてエンドロールが映し出されて、手を離す良いきっかけだと鞠がそれとなく手を動かしてみた。
 しかし新の手は緩まることなく、会場に明かりが灯るまで自由にしてはくれなかった。



(ちゃんと、男の子の手だったし……)



 ゾンビ映画の感想ではなく新への感想が浮かんでいた鞠は、感触を思い出して再び頬を紅潮させると。
 その姿を新にじっと見つめられていた。



「な、何……?」
「ん? いや、可愛いなーって」
「そ、そういうこと言わないで」
「なんで? 思ったこと素直に言っただけなのに」
「〜〜っ!」



 そう言って微笑む新に調子を狂わされてばかりの鞠は、無理やり話題を変えようとグッズコーナーを指差した。



「あれ行こ! ゾンビグッズいっぱいあるよ!」
「はいはい、わかったよ」



 それが照れ隠しであることも重々承知していた新は、控えめに笑い声を漏らしながら考えていた。

 照れを隠す理由が、ただ恥ずかしいだけではなくて。
 鞠の中で、徐々に自覚が芽生えていることによるものだとしたら。



(はぁ、早くキスしたいな……)



 どうか“好き”が確定した時は、隠さずに教えて欲しいと願う。
 そうしたら、すぐに奪いにいけるから。