単に誘われたから、という理由かもしれない。
ただ、心を許し安心できる人が相手でなければ、多分断っていただろうから。
(……私も少しは、気があるのかな?)
初めて話した当初は揶揄われて腹の立つこともあって、いちいち心臓がドキドキしてしまうのは怒りのせいだと思っていたし。
ただ、時折見せてくれる新の笑顔にはいつも、鞠も心を穏やかに安心を齎してくれる。
しかし、これが“好き”なのかと問われると、まだ弱い気がした。
幼馴染の北斗を好きだった時は、彼の良い面も悪い面も全部を知っていて、それでも一緒にいたいと思っていたから。
(まだ新くんの知らないところ、たくさんあるから……)
それでも今、自分が新の隣で苦手なゾンビ映画を見ようとしているのは。
新のことをもっともっと、知りたいからなのかもしれないと答えを導き出す。
ドギャァァン!!
「ヒィ!」
本編が始まったと同時に、大きな音と共にスクリーンに映し出されたゾンビの顔を見て、鞠が悲鳴を上げた。
幸い、声は大音量でかき消されたが危うく周りの迷惑になるところだったと反省していると。
何も言わずに、新がそっと手を差し伸べてきた。
少し瞳を潤ませた鞠が視線を上げると、スクリーンの明かりで浮かび上がった新の優しい笑顔が確認できる。
屋外倉庫でのネズミパニックの時もそうだった。
こういう場面では、つい誰かにしがみ付きたくなるのが鞠の習性らしく。
きっとそれを察した新が安心させるために「手を繋ごう」としてくれている。
「っ……」
鞠という好きな人を前に積極的な行動を取れる新が、頼り甲斐のある男の子に見えてしまって。
気付けばその手のひらに、自分の手を重ねていた。
すると、きゅっと優しく握られて、恐怖で冷たくなっていた指先が徐々に温められていく。
苦手なはずのゾンビ映画は、鞠の中ではただのBGMとなり。
繋がれた新の手の感触と、自分の鼓動の速まりを知って紅潮する頬を隠せずにいた。



