新くんはファーストキスを奪いたい




『俺、グイグイ来られるの嫌なんだよな』
(うわーそうだった、新くんはグイグイ嫌だったー!)



 無意識に新の苦手なことを許可してしまった鞠が、己の過失に恐れ慄いていた。
 きっと、今の新の胸中は穏やかではない気がして、ただのゴミ拾い時間が苦痛に感じ始めた時。

 何を思ってか、紗耶は鞠と雑談を開始する。



「三石さんって、彼氏いるの?」
「え⁉︎ いいいない」
「じゃあ好きな人は?」
「い、いません……」
「うそ〜ん、ほんとかなぁ〜?」



 ニヤニヤと疑うような視線を向けてくる紗耶に、鞠も少々困ってしまった。
 しかし、紗耶の今の質問には思惑があった。

 新へ好意を向ける女子はたくさんいる。そんな中で鞠のように二人きりの時間を過ごせる者はそうそういない。

 だから紗耶は鞠の気持ちを知っておきたかった。
 敵なのか協力者になり得るかどうかを、見定めておきたかったのだ。



「クラスの男子で良い人いないの?(新狙いじゃないでしょうね?)」
「みんな良い人だけど、恋愛とかは、今はいいかなって……」
「そっかそっか、恋愛だけが楽しみじゃないもんね!(はい一人ライバル減ったー)」



 鞠の返答に安心した紗耶は、クスクスを微笑みながら新にピタッと体を擦り寄せた。

 鞠という人間が、今は恋愛に興味がなく新に好意を向けている可能性がなかったから。

 おそらく、欲しい回答が得られた鞠にはもう興味がなくて、会話はここで終了。
 後は新との時間を過ごしたいだけの紗耶が、試すように声をかける。



「私は絶賛片想い中なんだよな〜。ねえ新、知りたい?」
「……あのさ」
「ん? なに?」



 久々に聞こえてきた新の声はどこか暗く低くて、鞠の体に緊張が走る。
 が、そのピリついた雰囲気は紗耶に伝わっていないようで、反応があったことに喜びの表情を浮かべていた。