「あんな感じの北斗だけど、よろしくお願いします」
「鞠ちゃん?」
「きっと北斗は唯子ちゃんを大切にするよ、幼馴染の私が保証するから」
「……ありがと、鞠ちゃんにそう言ってもらえるとすごく嬉しい」
心強い味方を得たように唯子が微笑んで、鞠もそれに応えた。
失恋して、一ヶ月ほどが経った今。
ようやく北斗と唯子を心から応援したい気持ちが芽生えた鞠は、ようやく再スタートラインに自力で立てた気がした。
すると、何を思ってか突然唯子が話題を変えて興味津々に目を輝かせてくる。
「ところで、鞠ちゃんと新は付き合ってないんだよね?」
「え⁉︎ ななないよ、ただの友達で同じ委員なだけだから」
「うーん、でもなんか信じ難いんだよな〜」
「なんで? 本当のことなのに」
「新のこと何とも思ってない?」
「思ってないよ!」
しつこく問いただされて、鞠は焦りながらもはっきりと否定した。
その言葉に少しだけホッとした様子の唯子は、鞠にその気がないのなら、と今心配していることを話し始める。
「ほら、新って昔からあんな感じだから思わせぶりな態度で女の子寄せやすくて」
「うん、わかるよ。今もモテてるよね」
「だからその、鞠ちゃんが傷つくことがなければいいなと。北斗も心配してたんだよ?」
「へ……?」
地元が一緒だった唯子は、中学時代の新のことをよく知っているのだろう。
しかし今の口ぶりは、なんだか新の良くない部分を知っていて忠告してきたようだった。
たとえ新の過去の女性遍歴を知ったとして、鞠には何のダメージもないはずなのに。
加えて、あの北斗が自分を心配していたと聞かされて、少しずつ鞠の心がざわついてきた。
「ごめんね鞠ちゃん、こんな話気分悪いよね」
「ううん、心配してくれてありがとう」
「とにかく、何かあったら私はいつでも相談に乗るし味方だから」
「大袈裟だよ〜、本当に私は大丈夫」
あの“俳優のようなイケメン”と自分がどうこうなるなんて、絶対にあり得ない話だから。
そう言いたげな鞠が、笑い声を交えながら先ほどより強めにボールを磨く。
でも唯子の気がかりは、鞠のその言葉だけでは晴れなくて。
どこか後ろめたさを抱えながら、視線を落とし苦悩の表情を浮かべた。



