「めのちゃん、めのちゃん……」

 聞こえる、わたしの名を呼ぶ透き通った声。

「めのちゃん、めのちゃん……起きて、起きて」

 柔らかい優しい少年のような声。──誰? 聞いたこともない声なのに、不思議ね……とても懐かしい。

「めのちゃん、めのちゃん……ボクだよ、こはく」

 ──え? こはく??

 わたしはその名に驚いて瞼を開いた。パッチリと見開いた刹那、慌てて再び目を(つむ)る。どうしてって、ビックリするほど光が溢れて眩しかったからだ。

「大丈夫? めのちゃん。でも……大丈夫だったらココにはいないと思うけどね」

「え?」

 少しずつ機能していく視線の先は、琥珀色の世界だった。いえ、違う。こはく、だ。こはくが目の前でわたしを見詰めている! 僅かに首を(かし)げて、わたしの具合を探っているような、その表情は心配しているようにも見えた。

「こ、こはく!!」

 わたしは勢い良く身を起こし、こはくにひっしと抱きついていた。ってことは、わたしは横になっていたんだね。気を失っていたんだろうか? 今この瞬間のその前までを、思い出そうとしても記憶がない。

 触れる掌の感覚は、ずっと知っていたゴツゴツとした甲羅の肌触り。頬に触れるこはくの首筋がひんやりと気持ち良い。それは一定の間隔で波を打って、こはくの息遣いが、こはくが生きているのだと、身をもって感じることが出来た。