「めのう……? ……めのう!」

 あれ? わたしったらまた眠ってしまったのかしら? リクガメ生活ってお部屋が暖かいから、ついウトウトしてしまうのよね。バスキングライトとか、パネルヒーターとか、上からの熱が甲羅の下の肺を温めてくれるんだ。

「めのう! 目を覚ましたのね!? 分かる……? 母さんよ!!」

 え……母さん??

 こはくは自分のお母さんをママと呼ぶし、大体にして聞こえる声はそのママでもこはくでもない。それにこはくはわたしを「めのちゃん」と呼ぶ。

「あ……わ、たし……?」

 自分の唇が動いて、良く知っている声が聞こえたことに気付いた。いや、リクガメだったら唇でなくて(くちばし)でしょ? そんな自分の思考にハッとして目を見開く。
 
「か……あ、さん……?」

「ああ……めのうっ、良かった……意識が戻ったのよ!!」

 意識が……?

 いきなり首元に何かがしがみついて、わたしはしばらくその強い抱擁に、硬直したまま瞳をパチクリさせていた。この髪の香り、この声、そう……わたしの母さんだ!