――何これ……夢? 今、あたしの前に立っているのは、息を切らして肩を上下させた疾風。 『追いかけてくるわけがない』 そう思っていた疾風が、追いかけて来てくれた。 「疾風……なんで?」 仕事帰りのサラリーマンたちがポツポツと通る住宅街に、あたしの間抜けな声が響く。 「なんでって。 あんなこと言われてそのままで良いと思うわけないじゃん」 そう言って、冷たくなったあたしの手を握る。 そしてもう片方の手は、あたしの涙を拭う。 それだけで、氷った心が温かくなっていくような気がした。