「九条くんもそろそろ家庭を持つべきじゃないかと思っていてね。この話が来た時は嬉しかったよ」

薫と安藤警視正の話す声だけが部屋に響く。桜士は口から思わず出てしまいそうになるため息を堪え、窓の外を見た。高級料亭なだけあって、立派な庭園が広がっている。

(もしも、目の前にいるのが四月一日先生ならな……)

桜士の目の前に置かれた豪華なだけで味気ない食事も、味をしっかり感じられたかもしれない。立派な庭園を散歩したいと誘っていたかもしれない。

別の人とお見合いをしている中だというのに、一花のことばかり考えてしまっている。それほどまでに自分は想いを寄せているのかと、桜士は笑ってしまいそうになった。

その時、薫が瞳と桜士を見て言う。

「二人とも、どうして会話をしないんだ?せっかくこんないい部屋で、庭もこんなに綺麗なんだから、もっと話したらどうなんだ?好きなこととか、休日の過ごし方とか、話すことはたくさんあるだろう?」