憧れのCEOは一途女子を愛でる

「まるで俺が香椎さんを好きみたいじゃないですか」

「違うの?」

「……そうですけど」

 ズバリ聞かれてしまい、逃げ場を失った俺は素直に認めた。照れた上でのことだとしても、彼女への気持ちを否定したくはなかったから。
 はにかんで複雑な顔をする俺を見て、伊地知さんがニヤリとした笑みを浮かべる。

「香椎さんは思いやりがあっていい子だよね。朝陽くんがイケメンだってだけで近寄ってくるほかの女の子とは違うじゃない? 香椎さんのそういう部分に惹かれたんでしょう?」

「はい」

 俺がなにも言わなくても全部お見通しだった。伊地知さんは普段から人をよく見ているし、きちんと他人の気持ちに寄り添えるところがすごい。

「大丈夫。私は朝陽くんを推しておいたわよ」

「ありがとうございます、先輩」

「その呼び方、懐かしい」

 伊地知さんは俺にとっては何年経っても“先輩”で、色恋抜きで人間関係を築こうとしてくれる数少ない異性だ。頼りになる姉のような存在でもあり、それは出会ったころから変わらない。

「先輩は昔から世話焼きですけど、自分のことはどうなんですか?」

「私?」

「俺がアイツをけしかけておきますから、イエスかノーか、そろそろ答えを用意しておいてくださいね」

 俺はあえて固有名詞は出さなかったが、誰のことを言ったのか伊地知さんはわかったはずだ。
 その証拠に聞き返したり、とぼけたりはせず、視線を泳がせながら考え込んでいた。