憧れのCEOは一途女子を愛でる

「そういえば記事を見たよ。真凛さんとのやつ」

「ああ、あれね。完全に切り取られました。会社同士のただの会食ですよ」

 伊地知さんが口にしたのは真凛との熱愛が疑われた記事の件だ。
 あの日は朔也も一緒にいたし、向こうも真凛のマネージャーや所属事務所の社長が同席していたのに、記事ではまるでふたりきりでデートでもしていたかのように書かれていた。
 写真もわざとほかの人間が写らないアングルで撮られていて、どうしても熱愛に見せたいのだという記者の意図が感じられた。

「まさか伊地知さんはあんな記事に騙されないでしょう?」

「もちろん。真凛さんはどうかわからないけど、朝陽くんにはその気はないよね。タイプじゃなさそう」

 仕事の書類に目を通しながらクスリと笑みをこぼす。
 いちいち全部説明しなくても理解してもらえる伊地知さんのような存在がいるのは本当にありがたい。

「あ、そうだ、思い出した。氷室くんが……」

「え?」

「うちの部署にいる氷室くんがね、香椎さんに気があるかも」

 魅力的な彼女がモテるのもうなずける。
 氷室という彼女と同期入社の男の顔が浮かんだ途端、心の中にモヤモヤとした感情が芽生えるのが自分でもわかった。

「歓迎会を開いてもらったときに、あからさまに香椎さんに絡んでたわ。ふたりが仲良くなって付き合っちゃっても知らないからね」

「なにが言いたいんですか」

「恋にはタイミングも重要ってこと」

 咄嗟にとぼけたけれど、伊地知さんとは付き合いが長いから本当はなにを言わんとしているのか見当がついていた。
 もたもたしていたら氷室に先を越されるぞ、という警告だ。