憧れのCEOは一途女子を愛でる

「本店の照明ね、ディスプレイデザイナーの人も気に入ってくれたわ。変えてよかった」

 後日、社長室を訪れた伊地知さんが意気揚々と報告するのを聞き、俺も自然と笑みがこぼれた。

「新しい部署に移ってからなんだか活き活きしてますね」

「うん。香椎さんのこともね、馴染めるかどうか心配だったんだけど大丈夫みたい。部内でうまくコミュニケーションが取れてる」

 今の言葉を聞いてホッとした。もしも気が合わない同僚がいたら仕事に支障が出るかもしれないと俺も気になっていたのだ。
 忌憚のない意見を言い合える仲間がいるなら、香椎さんも実力を発揮しやすいだろう。

 俺とは住む世界が違うなどと言い、恐縮してばかりでなかなか目も合わせてくれない彼女の姿が頭に浮かんだ。
 そういう態度を取るのは、わざと俺と一定の距離を保とうとしている意思の表れではないかとネガティブな思考に陥りそうになる。
 それは単に俺が社長という立場だからなのか、それとも男として魅力を感じないから近づかないように線を引かれているのか……。
 もし俺が社長ではなく普通の一般社員だったなら、同僚として彼女ともっと気さくに話せていた可能性もあったはずだ。

「香椎さんのおじいさんとも知り合いなんでしょ? 香椎さんと会社以外でも会ってるの?」

 伊地知さんの問いかけに、俺は首を小さく横に振る。
 祖父たちの前では互いに名前で呼び合おうなどと最初に提案したものの、そんな機会はまだ訪れていない。
 だからというわけでもないけれど、俺と彼女の関係は停滞したままの状態が続いている。