「お疲れ。帰るのか?」
「ああ……本店に寄ってからな」
この日、十九時前に会社に戻ってきた朔也と一階のエレベーターホールで鉢合った。
本店の照明の工事がうまくいったかどうか気になっていたから、自分の目でたしかめるために仕事を早めに切り上げたのだ。
「照明の件か。朝陽がやけに気にしてるのは、香椎さんが担当してるから?」
「……は?」
「香椎さんとはおじいさん同士が友達なんだっけ? なんですぐに言わなかったんだよ。怪しいなぁ」
冗談めかして言いつつ俺の表情をじろじろと観察する朔也に、「お疲れ」とだけ言葉をかけて会社を出る。
祖父たちが策をめぐらして彼女と碁会所で会ったことを、朔也や伊地知さんにいつ話せばいいかわからなかった。
きっかけを失っていたのもあるけれど、俺が彼女を意識しているという理由が大きい。だから朔也が指摘した『怪しい』という部分は当たっている。
工事はどうだったのか吉井店長に尋ねようと本店に赴いたら、香椎さんがひとりでスマホで写真を撮っていた。
仕事をしている彼女を見かけるとき、それはどんなシーンにおいても全力投球で一生懸命だ。
「自分のスキルアップに繋がるので、今はどんな仕事でもがんばりたいんです」
少々照れながらも凛とした声ではっきりと言い切った彼女に、俺はまた心を持っていかれた。
だけど俺の目をまともに見てくれなくて、それがもどかしくて目線の高さを合わせるようにかがんでみたけれど、彼女は困ったようにうつむいてしまう。
挙げ句、マネキンスタンドに足を取られて危うく転ぶところだった。
彼女の華奢な背中を支え、このままギュッと抱きしめたい衝動にかられたが、さすがにそれは無理だと思い留まる。
「ああ……本店に寄ってからな」
この日、十九時前に会社に戻ってきた朔也と一階のエレベーターホールで鉢合った。
本店の照明の工事がうまくいったかどうか気になっていたから、自分の目でたしかめるために仕事を早めに切り上げたのだ。
「照明の件か。朝陽がやけに気にしてるのは、香椎さんが担当してるから?」
「……は?」
「香椎さんとはおじいさん同士が友達なんだっけ? なんですぐに言わなかったんだよ。怪しいなぁ」
冗談めかして言いつつ俺の表情をじろじろと観察する朔也に、「お疲れ」とだけ言葉をかけて会社を出る。
祖父たちが策をめぐらして彼女と碁会所で会ったことを、朔也や伊地知さんにいつ話せばいいかわからなかった。
きっかけを失っていたのもあるけれど、俺が彼女を意識しているという理由が大きい。だから朔也が指摘した『怪しい』という部分は当たっている。
工事はどうだったのか吉井店長に尋ねようと本店に赴いたら、香椎さんがひとりでスマホで写真を撮っていた。
仕事をしている彼女を見かけるとき、それはどんなシーンにおいても全力投球で一生懸命だ。
「自分のスキルアップに繋がるので、今はどんな仕事でもがんばりたいんです」
少々照れながらも凛とした声ではっきりと言い切った彼女に、俺はまた心を持っていかれた。
だけど俺の目をまともに見てくれなくて、それがもどかしくて目線の高さを合わせるようにかがんでみたけれど、彼女は困ったようにうつむいてしまう。
挙げ句、マネキンスタンドに足を取られて危うく転ぶところだった。
彼女の華奢な背中を支え、このままギュッと抱きしめたい衝動にかられたが、さすがにそれは無理だと思い留まる。



