憧れのCEOは一途女子を愛でる

 あとで祖父から「冴実ちゃんはどうだった?」とニヤニヤした顔で聞かれ、今まで見合い話をことごとく突っぱねてきた俺は、器用に態度を軟化できずに言葉に詰まってしまう。

「お前は本当にいつになったら結婚する気になるんだよ。冴実ちゃんはいい子じゃないか。なにが不満なんだ」

 激しく俺に詰め寄ってくる祖父に対し、誤解だとばかりに俺は首を横に振った。別に彼女に対して不満なんかない。

「俺はちゃんと、冴実さんとの縁を大事にしたいと思ったよ。彼女は倫治さんの孫で、うちの社員なんだから」

 俺の言葉を聞いた祖父が目を丸くして驚き、そのあとすぐにウンウンとうなずきながら満面の笑みを浮かべていた。
 まだなにも進んではいないのに、まるでもう結婚でもするかのようにうれしそうだ。頼むから先走らないでほしいと伝えると、静かに見守ると祖父は約束してくれた。


 会社では、前々から店舗運営部への転属願を出していた伊地知さんが香椎さんも一緒に連れていきたいと言いだした。

「私には香椎さんが必要なの!」

 社長室まで来て俺と朔也に懇願する伊地知さんの言葉は、まるで愛の告白みたいだった。
 香椎さんを気に入っているのは知っていたが、そこまで惚れ込んでいるなんてと驚かされた。
 元から真面目であり、さらに伊地知さんが一から教育したのだから、彼女ならどこの部署でも通用する。
 事実、異動してからも精力的に働いてくれていると伊地知さんが鼻高々に報告を上げてきた。