憧れのCEOは一途女子を愛でる

 バレないだろうと高をくくっていたからバチが当たったのかもしれない。穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。

「顔が真っ赤だ。かわいいな」

 運転しながらチラリと顔をこちらに向けた彼がクスクス笑う。私は羞恥と緊張で心臓が爆発しそうだ。

「かわいいとか……からかわないでください」

「からかってないよ。正直な感想。どうせならさ、ちゃんと俺と目を合わせてほしいなぁ。今度は逆に俺が穴が開くほど見つめようか?」

「社長がするのは反則です」

 それにどれほどの威力があるのか、彼は自分ではきっとわかっていない。大半の女性が胸をときめかせるに決まっているのに。
 アハハと声に出して楽しそうに笑っている姿がなんだか新鮮で、さっきまで恥ずかしかった気持ちが次第に消えていった。

「社長も、冗談を言ったりするんですね」

「楽しいときには。でも……朔也と一緒にいるときはアイツのほうが明るいから、俺が目立たないだけかも」

 朔也と聞いて一瞬誰だろうと考えてしまったけれど、五十嵐専務だ。本当にふたりは仲がいいみたい。
 それよりも、『楽しいときには』と言ってくれたことがうれしくてニヤニヤとした笑みを浮かべてしまう。
 今の会話を素直に受け取ると、彼は今、私といて楽しいと思ってくれているのだから。

 一時間ほど走行したところで車は高速道路から降りて一般道路を進んだ。
 道路標識の地名からするとここはまだ東京のようだけれど、かなり西側までやって来ている。

「もうすぐ着くよ。この先をもっと行ったら奥多摩なんだけど……それは遠いから今日はこのあたりで」

「あ、はい」