憧れのCEOは一途女子を愛でる

「私ね、とにかくおじいちゃんには長生きしてほしいの! ずっと元気でいてほしい」

 まるで涙腺が壊れたかのように、気付いたら私の目からは再び大粒の涙がぽろぽろとこぼれていた。
 ここに来てから泣いてばかりなのは、驚いたり絶望したり安堵したりと、感情が乱高下しているせいだ。

「おお、朝陽」

 辰巳さんの声につられて顔を上げると、悲愴な面持ちをした社長がベッドの足元のところに立っていた。

「救急車で運ばれたと聞きましたけど……倫治さん、大丈夫ですか?」

「朝陽くんにまで心配をかけてすまないな。ありがとう。俺はピンピンしてるよ」

 吐血した人が言う言葉ではないなと虚勢を張る祖父を見ながら溜め息を吐きだした。

「社長もわざわざ来てくださるなんて……あ! 朝陽さん、でした」

 すっかり忘れていたけれど、祖父たちの前では下の名前で呼び合う約束だった。
 初めて“朝陽さん”と実際に口にしてみると、意識しすぎて顔から火が出そうになるくらい恥ずかしい。

「まぶたが腫れて目が真っ赤だな」

 ひとりで落ち着きなくおろおろとしている私の顔を、彼が心配そうに覗き込む。

「さっきからずっと泣いているせいだ。今日だけはブサイクでも許してやってほしい」

 冗談だとばかりに祖父は言いながらクスクスと笑っている。
 鏡を見ていないから自分ではわからないけれど、右手でそっとまぶたに触れてみたら、たしかに腫れぼったい感じがした。