憧れのCEOは一途女子を愛でる

「俺がいなくても冴実は立派に生きていけるだろう。けどな、仕事に没頭するのもいいが、人との縁や絆も大事にしてほしいと俺は思ってる。お前は不器用だから心配だ」

「縁や絆?」

「恋愛は相手の気持ちもあるからむずかしいよな。でも怖がるな。いい男なら近くにいるじゃないか」

 祖父は病気を抱えていたから、私が将来結婚するかどうかを気にしていたのかもしれない。自分が生きているうちに孫が幸せになるのを見届けたい、と考えていたのだ。
 そして、祖父が口にした“いい男”というのはきっと、神谷社長のことだろう。

「もしかして治療を拒む気? 今はガンも治る時代なんだからね! 手術が必要ならしてもらおうよ」

「……ガン?」

 一瞬ポカンとした祖父だったが、そのあと急に肩を震わせて笑いだした。私はなにもおかしなことは言っていないのに。

「そうか、俺がガンを患ってると思ったから、この世の終わりみたいな顔をしてたんだな」

「……え? 違うの?」

「ガンじゃなくて胃潰瘍だ。ちなみに手術は要らん。完治するまで治療は続けるよ」

 胃ガンではなかった……その言葉が耳に届いた途端に張り詰めていた緊張の糸が切れ、一気にホッとして祖父の身体に掛けられている布団の上に崩れるように顔を伏せた。
 とめどなく安堵の涙があふれてきて、しゃくりあげるようにヒクヒクとしだいに呼吸が乱れ始める。

「なんでそんなに泣くんだ。命に別状はないのに」

「だって……ちゃんと治療したらおじいちゃんは元のように元気になるんだと思ったらうれしくて」

「お前が結婚するまでは生きていないとな」

 祖父が苦笑いをしながら私の手をギュッと握った。大丈夫だと伝えたい気持ちが祖父の手の平から伝わってくる。