憧れのCEOは一途女子を愛でる

「なにをグズグズ泣いてるんだ? たっちゃんを困らせるな」

「おじいちゃん!」

 目を覚ました祖父が私を見るなり苦笑いを浮かべてそう言った。

「ねぇ、大丈夫なの? どこが悪いの?」

「……胃だ」

 そういえば、祖父は最近よく胸焼けがすると言って市販の胃薬を飲んでいたし、食欲も落ちていた。
 少し痩せたような気がしたから大丈夫なのかと尋ねたら「若いころと同じ量を食べられないだけだ。年を取るとみんなこうなる」と平然と答えていたので、私も納得してしまったのだ。
 祖父の言葉を鵜呑みにせず、もっと気にかけていればよかったと後悔の気持ちが一気に湧いた。

「実は以前に一度病院で診てもらったんだ。だから退治しなきゃいかん厄介なものが胃の中にあるのは知っとった。こうなったのはそれを放置したせいだな」

 厄介なもの……そう聞いてすぐに頭に浮かんだ病名は、胃ガンだった。
 だとしたら一刻も早く治療しないと命に係わるのに、どうして祖父は私や母に言わず、病院にも通わなかったのだろう。

 私が十三歳のころに亡くした父の顔がふと頭に浮かんできた。父の命を奪った病気も、ガンだったから。

「お父さんが亡くなってからは、おじいちゃんが我が家の大黒柱なんだよ?」

「俺ももう年だ。いつまで生きられるかわからん」

「そんなこと言わないでよ」

 父の代わりを務めようとしてなのか、祖父は実年齢よりも若く見えたし、同世代の男性と比べたら体力もあった。
 だけどそれも、私と母のためにずっと無理をしていたのかと考えたら胸が苦しくてたまらなくなる。