憧れのCEOは一途女子を愛でる

 翌週の週末、朔也からサーフィンに誘われたものの、俺はキャンプに行きたいと言って断った。
 朔也は潮の香りが好きでたまらないみたいだが、俺は山の綺麗な空気を吸って優雅にのんびりしたい。

 一目惚れで昨年購入したキャンピングカーに乗り込んでエンジンをかける。
 この車を買ってからは、遊びでの行動範囲がかなり広がった。あてもなく遠くまでふらりと出かけても、疲れたら車を停めて後ろのソファーで足を伸ばして横になれるのがいい。
 時間に縛られず、自社で販売している気に入ったキャンプ用品に囲まれて休日を過ごすなんて最高だ。

 ゆっくりと車を走らせていると、川沿いの堤防にあるベンチに座る女性の姿がふと視界に入った。
 その人物が香椎さんによく似ていた気がして、俺はわざわざ近くにあるコインパーキングに車を停めてそこへ向かった。

 ここは祖父が通っている碁会所からもそう遠くないので、彼女がベンチに座っている可能性も大いにある。
 たしかめに行ったところ、やはり見間違いではなかった。魂が抜けたようにぼうっと一点を見つめる香椎さんの姿がそこにあった。

 声をかけると彼女は俺の顔を見て驚いていたが、リフレッシュしたくてここに来たのだと言う。
 なんだか元気がない。笑みをたたえてはいるものの、どこかその表情は曇っている。
 おそらくマネキンの始末書の件をまだ引きずっているのだろう。

「今から俺と出かけない?」

 気が付けば俺は自然と彼女を誘っていた。
 このベンチでハクセキレイを見るのもいいけれど、もっと空気が綺麗でリフレッシュできるところに行こう。
 今日は社長と社員という立場を忘れ、ひとりの男として彼女に接したい。