「私、知らなかった……」

「え?」

「キスをすると、すごく幸せになれるんだね」

「ぐっ……」


へへと笑うと、理央は片手で自分の顔を覆った。あれ、どうしたのかな。

「理央?」と顔を覗きこむと、指の隙間から片目だけのぞく、理央の瞳と目が合う。


「……ここが学校で良かった」

「なんで?」

「場所が場所なら……襲ってた」

「おそ……ッ!?」


瞬時に顔を赤くした私。

そんな私をチラリと見た理央が、困ったように笑いながら――小さな声で呟いた。


「まだまだ時間は必要みたいだね。本当、襲わないで良かった」


続けて「嫌われるところだった」と、安堵の息を漏らす理央。

だけど、そんな彼の葛藤が今夜も続くことを、この時の私たちは知らない。


なぜなら――


「「夫婦水入らずで旅行に行ってくるから、あなたは理央くん/南月ちゃんの所に行っててね~」」


「ん!?」
「ぐっ……」


まさか双方の両親が口を揃えて、こんな事を言う日が来るとは、夢にも思わず。

お互いの両親を見届けた後――私と理央。


たった二人きりの夜が、幕を開けるのだった。