「あなたに話さなきゃよかった……」


グスッと、鼻にかかった声で呟くアリスちゃん。その声を、背中で聞いた太陽くんは――

無言のまま、前を向いたまま。

自分の左手を、アリスちゃんのいる後ろへ、ソッと伸ばした。


「……なにこれ」

「左手」

「そんなの分かってるわよ。何のために手を出したの?って聞いてるの」


怒った声のアリスちゃんに、太陽くんは笑った。


「はは、いやね。今、この場に俺とアリスちゃんしかいないでしょ?

なら――この左手を、俺の手だと思おうが、他の誰かの手だと思おうが。それは自由じゃん?

だから、今だけ貸してあげるって言ってんの。最後の思い出作りに、俺を使いなよ」

「……」


アリスちゃんは無言だった。だけど、私は――。

太陽くんの「相手を軽んじているようで、実は親身になっている優しさ」を間近で見て……。すごく、泣きそうになった。

それに、アリスちゃんの理央を思う気持ちにも――