黒田チセは、今日も学校の校門をくぐった。暗い茶色の髪をしていた。ショートヘアで前髪がたれていた。痩せている。野いちご学園高等部校庭。
 6月。快晴。うだるように暑い。制服の生徒たちが登校している。夏服である。女子は白いセーラー服姿。
 チセは白いセーラー服姿。汗をかいていた。
 女子たちがチセを見ると、
 「悪魔」
 と噂した。女子たちは冷ややかな目でチセをねめつける。中にはにやっとして見つめるものもいる。
 「悪魔」
 女子のグループが噂のように言っている。
 「あの悪魔」
 「悪魔がいる」
 「あの中悪魔入ってる」
 男子がチセのとこへ来た。
 「悪魔、今度こそ退治してやるう」
 「悪魔が生きてるのかよ」
 女子が来た。
 「あ、女子の中身が悪魔だ」
 「悪魔が歩いている」
 と、男子。
 チセの後ろ遠くのほうに高瀬帳がいた。高瀬君は女子たちの噂を聞いた。
 「あ、黒田さんだ」
 高瀬君はチセのほうに走った。
 「黒田さあん」
 チセは振り返った。
 「黒田さあん」
 「た、高瀬くん?」
 高瀬君はとても大きかった。高瀬君はきれいな金色さらさらヘアで目は切れ長で青かった。えりあしがのびていた。半袖の白いシャツ。女子たちが騒いでいる。高瀬君は学園一のイケメンで美少年、モデルであり、学校では有名なのだ。
 「え、どういうこと、悪魔に高瀬君が・・・・・・」
 「悪魔がなんか変な魔術でもかけたんじゃない」
 高瀬君はチセの前へ来た。
 「黒田さんって、悪魔族なの?」
 「え?」
 確かにみんなに悪魔と言われてる。
 「ねえ、黒田さんて、悪魔族なの?角はあるの?」
 「え?」
 女子たちが失笑している。
 「なあんだ、高瀬君も悪魔をからかってるんじゃん」
 「そんなことだろうと思った」
 チセはうつむいた。わかってた。
 「ねえ、黒田さんてえ、悪魔族なの」
 「う・・・・・・うん」
 わかってた。高瀬君みたいな人が私にまともに話しかけてくれるわけないって。ところが、高瀬君は満面の笑みを浮かべてこういった。
 「ええ、すごおい、ほんとに悪魔族がいたんだ」
 女子たちが失笑している。
 「ねえ、黒田さん、握手してもいいかな」
 高瀬君は照れくさそうに言った。
 「え?」
 女子たちが動揺している。
 「え、どういうこと」
 「高瀬君が悪魔と握手!」
 「ねえ、黒田さん、握手してもいいかな」
 チセは顔が真っ赤になった。
 「い、いいよ」
 つい答えてしまった。
 「ほんと」
 高瀬君は喜んでいる。高瀬君が右手を差し出した。チセは右手を出した。
 「ええ、うそお」