いつのまにか立っているのは水の上。

いくつもの波紋が広がり、葉緩はその一つの上に立っていた。



「葉緩」

「あなた、私の……」



そよ風のような声に振り向くと、穏やかに微笑む葉名がいた。

波紋が広がり、やがて葉緩の広げるものと混じりあっていく。

重なる姿に葉緩はもう葉名を思い出していた。



「私に番の匂いがわからないのは、あなたが折ったからだったんですね」

「うん。でも折ってよかったと思ってる」



ふわりと花開くように笑い、一歩踏み出して葉緩の手を両手で握りしめる。

あまりに同じ温度で、馴染むことに葉緩は目を見開いた。



「私は幸せだったから。蒼依くんに愛されて、本当に幸せだったの」



見た目も性格も違う。

だけど二人は同じ存在だと認識できる震えがあった。



「そして今、彼はあなたを求めてやってきた。彼がなんの匂いを感じているかはわからないけど、あなたを求めている。私は怯えてばかりだった。でも……あなたは違うでしょう?」



怯えてばかりだった葉名。

蒼依に手を引かれなければ伸ばす勇気もなかった。


悲観的な考えに縛られた葉名が願ったのは、蒼依を笑顔に出来る楽しく明るい人間になること。

そして守られてばかりではない、共に戦うことの出来る強さであった。



「あなたはあなたで、欲しい幸せを掴んで。葉緩の願いは、大切な人たちの幸せでしょう?」

「……そうですね。私はあなたの願いもあり、このような性格になりましたから」



葉名の手を握り返し、ニッと口角をあげる。

自信に満ち溢れた藤の瞳が葉名を見つめ返した。



「私は欲しいものには躊躇しません! 葵斗くんも、主様と姫もみんな、私の大好きな人たちです!」



自分の幸せも拒絶しない。

葉緩の願いは桐哉と柚姫が結ばれることだったが、二人もまた葉緩の幸せを願ってくれている。

それは桐人と柚だった頃から葉名を大切に思ってくれているからだ。


二人が望むのならば葉緩は自分の幸せにも手を伸ばす。

そして葉緩と共に幸せになることを望んでくれる葵斗がいるのだから、この胸の高鳴りに身をゆだねよう。



――今度は、葉緩が葵斗を幸せに……。いや、共に幸せになる番である。



「みんなで幸せになれば何も怖くないよ。たくさん守ってもらったから。だから私は強いのです! みんなの想いが今の私なのです!」



葉緩の言葉を受け、葉名は涙を流し、笑った。



「もう大丈夫ね。愛する私と彼の子よ」

「生きてくれてありがとう! 私、絶対に幸せになります!!」



大切な人の幸せを願い、行動する。

それが葉緩の生き方。


葉緩を大切に想ってくれる相手ならば、その幸せの中に葉緩の幸せもある。



――これは、一人だけの幸せではないから。