「これは……幻?」
「葉名」
(あぁ、聞き間違うはずもない。この声は、愛を囁いてくれる声だ)
「蒼依くん!」
駆けだす。
ただ真っ直ぐに、蒼依の胸の中に飛び込んでいく。
「元気な子を産んでくれたんだね。 ありがとう」
「蒼依くん、蒼依くんっ……! 会いたかったです、夢でもなんでもいいから会いたかった!!」
「ごめん、守りきれなくて。一人にさせてしまった。ごめんな」
涙を流す。
ずっと耐えてきた想いがあふれ出す。
葉名を想うやさしい心に涙せずにはいられなかった。
「いいえ。私は今、素晴らしい方々のもとでお世話になっております。おかげであなたとの子を産むことが出来ました」
「そうか」
葉名の涙を指で拭い、瞼に唇を落とす。
ふと、木を見上げて葉名の枝を見た。
「葉名の枝は、手折ったのだな」
「……もう、誰の運命も巻き込まないようにと」
その言葉に蒼依はそっと葉名を抱きしめる。
「来世で必ず……」
「え?」
「必ず会いに行く。匂いがわかってもわからなくても、俺は葉名を見つけてみせる。……待って、くれるか?」
葉名は悟る。
匂いがわからなくても蒼依を求めてやまないのだろうと。
この甘さも苦さも入り混じったものが、二人を繋ぐものだのだと。
「はい。もし見つかった時は素直になりたいです。あなたの腕に飛び込める、そんな女の子に」
ふわりと微笑み、蒼依の両頬に手を伸ばす。
その笑顔は、蒼依が一番好きな葉名の笑顔であった。
「次はもう少し楽観的な女の子になりたいな。あと強くなりたい。それでたくさん、あなたに愛されていたい。そんな……私の夢物語」
「夢じゃない、叶えてみせるさ」
「蒼依くんは少し真面目すぎましたね。もう少し肩の力を抜いてもいいと思いますよ」
「そうだな。もっと葉名に手を伸ばす欲張りもいいかもしれない」
「愛してます。 誰よりも愛しています」
だから、次に会うことが叶ったならばどうか。
──やさしいキスをしてください。



