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それから月日がたち、命を救われた葉名は無事に子を出産していた。



「かわいい、私の坊や」

「体調はいかがですか?」



部屋に入ってきたのは、葉名を救った女性・柚であった。

穏やかに微笑み、葉名の前に座り込む。

桐人と柚に出会わなければどうなっていただろう。

ただただ感謝の気持ちでいっぱいであった。



「奥方様には大変お世話になりました。おかげで無事にこの子を産むことも出来ました」

「……ねぇ、葉名。本当にここを出るというの?」



その問いかけに葉名は苦笑する。

蒼依としか心を通わすことの出来なかった葉名は、人の頼り方がわからなかった。



「これ以上、迷惑をかけることは」

「迷惑など思っていないよ。むしろいてくれた方がありがたいのだが」



そこに現れたのは桐人であった。

柚のとなりに腰掛け、そっと柚の手を握る。

微笑みあう二人に葉名は暖かい気持ちを知った。



「葉名、お前は忍術の心得があるだろう」

「……はい。ですが未熟ゆえに活躍は難しいかと」

「構わぬ。ただ子に心構えをといてほしいのだ」



驚きに顔をあげると、桐人が幸せそうな顔をして柚の腹を撫でる。

まだ膨らんではいないが、柚も桐人との子を宿していた。



「お柚も今は子を宿しておる。その子の相手をし、将来は護衛となってほしいのだ」

「そんな、そのような身に余る光栄で……」

「葉名、私からもお願いします」



柚が桐人が重ねる反対の手で、葉名の膝に触れる。

慈愛に満ちた笑みに葉名は目を奪われた。



「葉名の子ならば安心出来ますから」



――ドクン。



(私は、どうしてら良い? 裏切り者の抜け忍が別の地でまた忍びを育てると?)



「うーあー」


腕に抱いた子が声を出し、葉名を見ている。

いとおしい姿に葉名は蒼依の面影をみた。



(会いたいです、蒼依くん)


――その瞬間、葉名の意識が白い光に包まれる。

目の前には番の木が立っており、その前にやさしい表情でこちらを見つめる蒼依がいた。