壁にキスはしないでください! 〜忍の恋は甘苦い香りから〜


「俺は葉緩が好きだよ。だから嫌なら俺の枝を折って」

「……枝?」

「ようやく葉緩に伸びた枝だけど、葉緩が嫌なら折ってほしい。そうすれば……諦められるのかもしれない」



(枝ってなに? 折ったら諦められるって?)



困惑する葉緩に葵斗は切なそうに恋焦がれ、見つめる。



「……葉緩は折ってるからね。俺のこと、求めてないから折ったのかもしれない」

「あ……」

「だけど俺は葉緩がほしい。その想いがようやく葉緩へと伸びてくれたんだ」

「まっ──」

「嫌なら抵抗して」



――飲み込まれる。

青い海に、溺れていく。

それはもう、自分の意志では止められないほどに深く、深く。

苦しいのに触れるぬくもりに震え、涙がこぼれた。




「んっ……ふぅ、ん……」


勝手に零れる涙のせいで、口の中がしょっぱかった。

なのにどこか甘くて、めまいがする。



(……ずるい。何も思わなかったら受け入れたりしない。油断してたのは……葵斗くんに嫌悪感なかったから)



今でも匂いはわからない。

だが触れる温もりは心惹かれた。


目が、耳が、肌が……すべてが甘さを求めている。

いざ触れれば苦みもあって、知らないことばかり。



(……ムカつく。 私、振り回されてばかりです。葵斗くんに好きだと言われるのが嬉しいのです)



唇が離れて、乱れた息を吐くとこちらを覗き込む青い瞳があった。