苦痛に眉をひそめる。
「……葵斗みたいに踏み出せない。くそー……情けない。葵斗はカッコいいし、なんか悔しいな……」
どれだけ周りにかっこいいと騒がれようとも、桐哉は葵斗に劣等感を抱いていた。
みんなにヘラヘラしていないだけで、好きな人に真っすぐな葵斗をかっこいいと思っていた。
その反面、誤魔化してばかりの自分に桐哉は嫌気がさしていたのであった。
悔しさに目をつむり、教室から出ていく。
やがて全員が体育館へと向かい、誰もいなくなった教室で葉緩は姿を出す。
お得意の壁と化し、隠れていたのであった。
壁布から顔だけ出し、布を握りしめて足元を見る。
どうにも桐哉と柚姫の恋路に集中が出来なかった。
「……お役目に集中しなくては。二人が一緒にいるとき、私は隠れるのが筋ですから」
「葉緩」
「……っ! 葵斗くん……」
顔をあげるとこちらを心配そうに見つめる葵斗が立っていた。
いつも葉緩に気付かれずに目の前に立つ葵斗に心がかき乱される。
咲千代には強く出たが、いざ葵斗を前にするとうまく立ち回れない。
何を口にすればよいのか、どんな表情をしていればいいのか。
意識すればするほど、葵斗の瞳に映る自分が気になって仕方ない。
「何かあった?」
「別に、何も……」
「葉緩にとって俺は迷惑?」
「……! 迷惑とかそういうわけでは……」
可愛げのない返答だ。
柚姫のように腹を立てることも出来ない。
どうして桐哉と柚姫はお互いを好きだと認めることが出来たのだろう。
葵斗は何故、葉緩を求めてくる?
(ドキドキする。でもモヤモヤもする。痛いの。……ダメだって思ってしまう)
――それは何故?
ダメだと思う恋愛って、何?
海の色が気になるくせに、また俯いてしまう。
その素直にならない頬を葵斗の大きな手が包み込んだ。