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「四ツ井、補習な」
学校に到着し、さっそく昨日の数学のテストが返される。
やたらと採点結果が早く出たわけだが、告げられた言葉に葉緩はショックを隠せない。
(絢葉に渡された結果と同じ。がーん! 弟にバカにされている!!)
「あと望月も。テスト、サボったから補習後、再テスト」
自席でうつ伏せに寝ようとしていた葵斗が不機嫌に顔をあげる。
「めんどくさい。……でもまぁ、いっか」
「望月はもう少しやる気出そうなー。先生ちょっと寂しいぞー」
教師の言葉を無視し、葵斗はがっくりと落ち込む葉緩を眺めていた。
「それとなー、この後緊急で全校集会があるから全員体育館に行ってくれ」
その言葉に教室内がざわつきだす。
だが教師の指示に従い、生徒たちはぞろぞろと教室を出て、廊下に整列していく。
「あれー? 葉緩ちゃんどこに行ったのかな?」
柚姫は落ち込んでいるであろう葉緩を連れて行こうとするも、教室を見渡しても葉緩はどこにもいなかった。
不思議に思いながら首を傾げていると、桐哉が柚姫に気付いて近寄ってくる。
「徳山さん、どうしたの?」
「葉緩ちゃんの姿が見当たらなくて」
「またか。よくいなくなるよなぁ。中学の時から急にいなくなるんだよ」
長く付き合っていると葉緩の奇行にも慣れるというもの。
桐哉は大して心配をしていなかったが、それを見て柚姫は頬を膨らませる。
「二人って仲良しだよね。……いいなぁ、あたしももっと葉緩ちゃんのこと知りたいな」
葉緩を大切に思う柚姫に、桐哉もまたムッとする。
「徳山さんって葉緩のこと本当に好きだよね。……ちょっと妬ける、かも」
そこは恥ずかしがりやの桐哉。
はっきりと告げることも出来ず、誤魔化しに走ってしまう。
柚姫は途端に真っ赤になり、あせあせとしながら笑い出し、声を裏返らせた。
「え、ええっ!? 何言ってるの? 桐哉くんって本当に言葉上手なんだから」
「……オレは本当に」
「……体育館、行こ? 早く行かないと怒られちゃう。 緊急で全校集会ってなんだろうね?」
パタパタと走り、柚姫は廊下の列に混じる。
その後ろ姿を見て、桐哉はキュッと手を握りしめた。