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報告を終え、休み時間に葉緩はのんびりと廊下に出て窓から入り込む風を浴びていた。


「あ、そうだ。 徳山さん、せっかくだしこれ、どうかな?」

「わぁ!」



桐哉と柚姫の会話が耳に入り、壁に張り付いて耳を大きくして聞き入っている。


「うん、すごくいいと思う! これにこれを足して……」

「さすがは徳山さん。女の子の鏡だね」

「やだもぅ、恥ずかしいよ……」



(きましたきましたー! 主様と姫のイチャイチャがはじまった! これは距離を取るべし!)


周りに誰もいないことを確認し、葉緩は廊下の壁に擬態する。

教室の窓が開いているため、二人の様子を見ながら会話を楽しむにはベストポジションであった。



(ふへへへ、周りにバレずに壁に擬態するなど慣れたものよ)


布を握りながらニタリとする葉緩。

すると鼻を唯一無二の匂いがかすめていった。



(ん、この匂いは……!)


気づいた時には既に遅い。

しっかりと葉緩は葵斗によって壁との間に挟まれていた。

匂いが分かるようになっても、気配のない葵斗は隙がない。

匂い慣れしていないこともあり、葉緩はすっかり油断していたのであった。



「早く匂いに慣れてね? あ、でもやっぱりいいや」

「あ、葵斗くん?」


「不意打ちも楽しいからね」



ーーチュッ。


唇が布越しに触れた。

目元だけ布から出し、藤の瞳に葵斗を映し込む。

顔はあまりに真っ赤で、リンゴのように熟していた。


「だ、だから私は今! 壁なのです!」


そんな言い訳はまったく通じない。

ニコニコと迫ってくる葵斗に葉緩は燃えながら叫ぶのであった。



「壁にキスはしないでくださーい!!!!」





【壁にキスはしないでください!〜忍の恋は甘苦い香りから〜】


卍〜恋路の章〜卍 【幕】