Side依子

依子は仕事が終わると帰り道
ずっと安斉さんに送るメールの
文面を考えながら歩いていた。

『お手紙ありがとうございます。
私も安斉さんと一度お食事したいなと思っていたところです。お誘い頂いてとても嬉しいです』


しかし、そこまでメールを打つが
「いや、これはがっつき過ぎかな」
納得いかずカチカチカチと文字を削除していく。

安斉さんから手紙をもらった時は
舞い上がっていたけど、
そもそも、連絡先をもらったからと言って
これが安斉さんが私に好意を抱いているとは限らない。

ただ単に友達としてとか、取引先相手として仲良くしたいだけの場合も無いわけではない。

ここはもう少し固い文面にしたほうがいいのかな...

『いつもお世話になっております。
お食事の件ですが...』

でもあまりよそよそしいと万が一でも安斉さんが好意を寄せてくれてたときに
脈がないと思って諦めてしまわないだろうか...

再びカチカチと文面を消去していく。

どうしよう...

もうすでに夜の9時を過ぎてる...

あんまり遅くなると失礼になってしまう...

私は立ち止まると
「わあぁぁ、もう何て送ればいいのよぅ」
わしゃわしゃっと自分の頭を掻き乱した。

すると後ろから急に腕が伸びてきて
私の首に回された。
私はびっくりして腕の主を見上げた。

「大地っ!」

すぐに犯人が分かり声をあげるが
「依子、ご飯食べに行くから付き合えっ」
有無を言わさずズルズルと後ろに引きづられていく。

「わわっ、あぶないって...」

ズンズンと家とは反対方向に
歩みを進める大地に
後ろ歩きの私は必死にその腕にしがみつく。

「分かったからちょっと離して!!」

数メートル引きづられて漸く解放された。