「あのさ、昨日のことたんだけど...」

「んっ?」

私がもじもじしながら、言い淀んでいると
「なに?」と大地が急かすように尋ねてくる。

「ん~とね...
昨日は私達かなり酔ってたし
何て言うか、事故みたいなものだと思うの」

私の言わんとすることが分かってきたのか
大地は何も言わずに黙って聞いている。

「私も昨日のことは忘れるから、
大地も忘れてお互い今まで通りただの隣人として昨夜のことは水に流しましょ」

恋愛感情なんてないはずなのに
自分で言って
虚しさからか胸がチクッとトゲをさす。

「依子は後悔してるの?」

少しの間、黙っていた大地が口を開いた。

私はコクンとひとつ頷いた。


大地はハァッとため息を漏らすと
「あっそ」と言って素っ気ない態度で
自分の脱いだ服を着はじめた。

なんだか大地の刺々しい態度に
胸が痛くなり「何か飲み物入れようか?」
と気遣う。

大地は私に目を合わすことなく
「いらない。仕事あるから帰る」
とさっさと自分の服を着終わると
部屋から出て行ってしまった。

私は泣きそうになるのを押さえるように
はぁっと息を吐いた。

何をやってるんだろ...

残されたのは、30過ぎの惨めなじぶんだけだ。

「仕事行かなきゃ...」

私は自分だけ 傷ついているのを
誤魔化すように急いで身支度を始めた。