だけど僕はもう彼女と出会って
この叶うか叶わないかの恋に溺れてしまっているわけでその現実を今更変えることはできない。

「今は辛いかもしれないけど、いつかその傷も癒える時が来ます。
僕はずっと依子さんのそばにいます。だからその傷を癒す手伝いを
僕に任せてくれませんか?」

依子さんは「えっ?」と戸惑いの表情を向ける。

「もう気づいているとは思うけど僕は依子さんのことが好きです。
依子さんが苦しいときは呼んでくれたらいつだって駆けつけます。
泣きたいときは僕に好きなだけ頼ってくれたってかまわない。僕はずっと依子さんのそばで支えますから。だから僕のことを少しでもいいから見てほしい。」

僕が訴えかけるように依子さんを見つめると
依子さんは「あの、でも私は...」と僕から視線を反らした。

きっとその言葉の続きは宮城のことが好きだという僕にとっては残酷な言葉なのは分かっている。

「すぐに気持ちを僕に向けてなんてことは言わない。少しずつでいいんだ。
僕のことを知ってほしい。
僕にチャンスをくれないかな。」

僕はそう言って依子さんの逃げ道を塞いでいく。

「ありがとうございます。安斎さんの気持ちはとても嬉しいです。
でも、安斎さんを好きになる保証はないです。吹っ切れるまでどのくらい掛かるかもわからないですし。
それまで安斎さんを縛ることは私にはできません。ごめんなさい」

依子さんは言葉を選びながらも、僕にきっぱりと拒絶の意思を告げる。
寂しさを埋める為に僕をキープとしてずる賢く遣ったっていいのに、それを良しとしない彼女の強さと優しさに僕は益々彼女が欲しくなってしまう。

「それでもいい。依子さんの気持ちが立ち直るまでそばで見守らせてほしい。」

僕の言葉に依子さんは返答に困っているようだ。

「あまり深く考えないでほしい。僕が好きで奉仕したいだけなんだから。ほらっ、この話は終わりにして食べましょう!」

僕はにっこりと笑って依子さんがそれ以上、
断れないように話を反らした。


ごめんね。依子さん。
僕も君と出会うまで自分がこんなにも諦めの悪い人間だとは思わなかった。
だから、もう少し最後の悪あがきさせて欲しい..

僕は「はい..」と言って困惑した表情で再び食べ始める依子さんを見つめながら、心の中で呟いた。