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「どうして……?」

 彼の瞳がゆらゆらと揺れる。

 戸惑い、信じられない、というように。

 ────放課後の教室。

 私たち以外には誰もいなくて、吹き抜ける風がカーテンを煽った。

「ごめん、理人。でも、私もう────」

「謝るんだ?」

 彼が息をこぼすように笑った。

 嘲るみたいに、あるいは失望したみたいに。

 そんな冷たい態度、初めて目の当たりにした。

「ひどいね。僕のそばにいる、って言ってくれたのは菜乃でしょ。僕、ずっと信じてたのに」

 理人は私を責めるような眼差しをした。

 たまらず彼に言い返す。

「私だって、そうしたかった……!」

 何だか泣きそうになって、ぎゅう、と両手で拳を握り締めた。

「でも、無理なんだもん。もう私、限界なの」

 理人のそばにいたくても、周囲がそれを許してくれない。

 私への嫌がらせは日に日にエスカレートして、私はどんどんひとりぼっちになっていって。

 孤独で、惨めで、悪意に野ざらしにされて。

 理人だって知っていてもおかしくないはずなのに、何にも言わない。助けてくれない。

 私の心を犠牲にして、自分の望みを押し通しているだけ。

「苦しいの。辛くて、もう我慢出来ない。そんな思いしてまで、理人のそばに無理矢理いる必要ある……!?」

 感情が爆発した。

 込み上げる涙が何なのかは分からなかったけれど、とにかく胸が詰まった。

「……菜乃は、僕のものなのに」

 ぽつりと理人が呟く。

「違う……。違う、私はものじゃない」

 ましてや彼の所有物でもない。

 今までずっと目を背けてきた現実だった。

 理人が私の気持ちを蔑ろにしていること。

 自分のためだけに私と一緒にいたこと。

 目を背け、耳を塞いできた。鈍感になろうとしていた。

(でも、もう私は一人じゃないから)

 変われる。頑張れる。

 これからは理人に依存しなくても、ひとりぼっちじゃない。

「理人。私、好きな人が出来たの」

 思い切って告げた。

 いつだって、優しさと勇気と自信をくれる“彼”が気付かせてくれた。

 彼と出会って、曇っていた視界が晴れた。

 このままじゃいけない、って一歩踏み出せた。

「え……?」