狂愛メランコリー




 部屋の中にアラームが鳴り響いていた。

「う……」

 何だかお腹の底が気持ち悪い。
 もちろん気のせいなのだけれど、“前回”ココアに仕込まれた毒を飲んだせいだ。

 心臓が突き刺すように痛んだのも気のせい。
 記憶が見せる幻。

 重いため息をつき、わたしは頭を抱えた。

(いまの夢は、ループが始まったきっかけ……?)

 最初の記憶だ、と直感的に思った。
 初めて理人に殺された日の記憶。

「じゃあ、やっぱり────」

 “やり直したい”と、わたしが願ったことでループが始まった。

 これはわたしが作り出したループだったんだ。

 理人に殺される結末を覆すため、あらゆる選択をやり直すため、迫りくる“死”からの逃避(エスケープ)

 そう思い至ると同時に、あることに気がついてしまった。

 “昨日”の憶測は正しい。

 わたしに残された選択肢はふたつだ。
 理人を殺してループを終わらせるか、自分が死を受け入れるか。

 すっかり気が滅入っているのは、それだけが理由じゃなかった。

「向坂くん……」

 彼の行動に少なからずショックを拭えないのだ。

 悪意があったわけじゃないということは分かっている。
 それでも、まさか理人を殺そうとするなんて。

「…………」

 もう、時間がないのかもしれない。

 ループを繰り返すほど、わたしと理人だけでなく、巻き込んだ人の歯車まで狂わせてしまうのかも。

 自分のせいで傷つかなくていい人が傷ついた。罪を犯した。

 晴れない気分で支度と朝食を済ませて早めに家を出ると、門前で理人を待った。

 もう“前回”みたいな小細工はしない。
 寝坊したふりも、だめなわたしも必要ない。

(終わらせるんだ)

 ループはもう、今回きり。
 結末はわたしが決める。



 いつもなら連絡をくれる時間になっても、理人からは何のアクションもなかった。

 不安が込み上げて、スマホのロック画面を確かめる。
 4月28日────ちゃんと巻き戻っている。

(大丈夫、だよね……?)