狂愛メランコリー


「……っ」

 吐息が震えた。
 ぎゅ、とナイフを強く握り直す。

『わたしがずっと、理人のそばにいる』

 記憶の奥底で光が揺らめいた。

『……ありがとう』

 理人の綺麗な横顔と、儚い笑顔が透き通っていく。

(……だめ)

 やっぱり、だめだ。こんな結末は嫌だ。

 こうなることを、理人の死を、望んでいたわけじゃない。

 逃げちゃいけない。

 ────決めたんだ。
 理人のそばにいる、って。彼をひとりにしない、って。

 そのために今度こそ、ちゃんと向き合わなきゃ。
 彼の抱く殺意に。

「花宮!」

 わたしは自分の心臓めがけて、振り上げたナイフを突き立てた。

(戻って────)



     ◇ ◆ ◇



「どうして……?」

 彼の瞳がゆらゆらと揺れる。
 戸惑い、信じられない、というように。

 ────放課後の教室。

 わたしたちのほかには誰もいなくて、吹き抜ける風がカーテンを煽った。

「ごめん、理人。でも、わたしもう……」

「謝るんだ?」

 彼が息をこぼすように笑った。
 嘲るみたいに、あるいは失望したみたいに。

 そんな冷たい態度、初めて目の当たりにした。

「ひどいね。そばにいる、って言ってくれたのは菜乃でしょ。僕、ずっと信じてたのに」

「わたしだって、そうしたかった……!」

 たまらず言い返す。

「でも、無理なんだもん。もうわたし、限界なの」

 理人のそばにいたくても、周囲がそれを許してくれない。

 意地悪な嫌がらせは日に日にエスカレートして、わたしはどんどんひとりぼっちになっていって。
 孤独で、惨めで、悪意に野ざらしにされて。

 理人はただわたしの心を犠牲にして、自分の望みを押し通しているだけ。

「苦しいの。辛くて、もう我慢できない。そんな思いしてまで、理人のそばに無理やりいる必要ある……!?」

 心がちぎれて感情が爆発する。
 とにかく胸が詰まって、涙が込み上げた。