悩んだ挙句、朝は理人と普通に登校することにした。

 ただ、何かあったときのために向坂くんと通話を繋ぎっぱなしにしておく。

 私の身に危険が迫ったら、彼自身が来てくれるか、警察に通報してくれるはずだ。

 理人は私の記憶に気付いていないはずだから、朝の段階で殺されるとは思えないけれど、念のためそうすることにした。

「おはよう、菜乃」

「おはよ。ごめんね、お待たせ」

 今日も寝坊したふりをして、理人が来てから家を出た。

 彼は満足気ににっこり笑う。
 やはり疑われている様子はない。

 今のところは理人の望む私でいられているのかな。

「ねぇ、理人。今日の放課後ちょっと寄り道しない?」

 私は小首を傾げて尋ねた。

 ────昨晩考えて、基本に立ち戻ることにしたのだ。

 “理人に殺されないようにする”。

 それが、このループの中での私の原動力であるはず。

 小難しいことは考えずに、とにかく死を回避すればいい。

 これまでは私だけで、あるいは私と向坂くんだけで何とかしようと思っていたから、うまくいかなかったのかもしれない。

 でも、他にも頼れる人たちがいた。警察だ。

 理人が私を殺そうとしている、という証拠さえ掴めれば、彼は逮捕されるだろう。

 そうすれば、私は死の危機から脱せる。

 終わらない3日間を抜け出せる。

 もう、殺されずに済む────。

 だから、とにかく証拠を掴むまでは延命(、、)しなければいけない。

 放課後に約束を取り付け、少しでも時間を稼ぐのだ。

「放課後? いいよ」

 理人は迷わず頷き、柔らかく微笑んだ。

「どこに行きたいの?」

「えと、まだ決めてないんだけど……。理人と出かけたくて」

 慎重に言葉を選んだ。

 向坂くんに聞かれていると思うと、少し話しづらい。

「菜乃がそんなふうに思ってくれてたなんて嬉しいな。じゃあ放課後までに行き先考えとくね」

 どこまでも甘い語り口で言い、理人は私の頭を撫でた。

 あたたかくて優しいのに、少しだけ息が詰まる。

(大丈夫……)

 何度も何度も言い聞かせた。

 私、今回はうまくやれてる。

 もう、簡単には殺されない。

 私の命も記憶も、理人の好きにはさせない。