狂愛メランコリー


 これまではわたしだけで、あるいはわたしと向坂くんだけで何とかしようと思っていたから、うまくいかなかったのかもしれない。

 でも、ほかにも頼れる人たちがいた。警察だ。

 理人がわたしを殺そうとしている、という証拠さえ掴めれば、彼は逮捕されるだろう。

 そうすれば、わたしは死の危機から脱せる。
 終わらない3日間を抜け出せる。

 だから、とにかく証拠を掴むまでは()()しなければいけない。

 放課後に約束を取りつけ、少しでも時間を稼ぐのだ。
 隙を見て腕時計を取り返すためにも。

「放課後? いいよ」

 迷わず頷いてくれた理人は柔らかく微笑んだ。

「どこに行きたいの?」

「えと、まだ決めてないんだけど……。理人と出かけたくて」

 慎重に言葉を選んだ。

 向坂くんに聞かれていると思うと、何だか少し話しづらい。

「菜乃がそんなふうに思ってくれてたなんて嬉しいな。じゃあ放課後までに行き先考えとくね」

 どこまでも甘い語り口で言い、理人はわたしの頭を撫でた。

 あたたかくて優しいのに、少しだけ息が詰まる。



 放課後になると、理人とともに昇降口で靴を履き替える。

 ふと顔を上げたとき、柱の影に向坂くんを見つけた。

「…………」

 彼はわたしを見据えたまま、こくりと頷いてくれた。

 何か起こるとしたら、いまからだ。

 昨日言っていたように、向坂くんはわたしたちを尾行して理人を見張っていてくれるのだろう。

 わたしもこくりと強く頷き返しておく。

「ねぇ、菜乃。考えてたんだけど、甘いものでも食べにいかない?」

「甘いもの……」

「そう、ケーキとか。駅前に新しくできたお店、知ってる?」

 ────やっぱり。
 なんて思ったのはどうしてだろう。

 初めて聞いたけれど、何となく予感がしていた。
 理人がそのケーキ屋の話をすること、そこへ行こうと言うこと。

 何だか、予知したみたい。