“前回”、痛いほど分かった。
理人には何を言っても無意味だ。
結局、彼はわたしの気持ちなんてどうでもよくて、自分の望みを叶えたいだけなのかもしれない。
『僕と一緒に死のう』
自分の死だって厭わない。
あの透明な雰囲気は、諦めていたからだったんだ。
わたしの心を得られないなら、わたしがほかの誰かを想うなら、わたしを殺して自分も死のう────なんて、本当にいびつな想いだ。
ループがなくても同じ選択をするのかな?
わたしには到底理解できない。
(……あ、そっか)
それと同じように、理人もわたしの気持ちが理解できないのかもしれない。
だから、何を言っても響かない。
分かってくれない。
分かり合えない。
「…………」
でも、じゃあどうすればいいのだろう。
何をすれば、死に抗えるの?
理人に殺されずに済むの?
(もう分かんないよ……)
殺しの動機も、記憶の法則も、いろんなことが判明したのに現状は八方塞がりだった。
そもそもこの世界に正解なんてあるのだろうか。
わたしが殺されない結末なんて、本当に存在するの……?
◇
「おはよう、菜乃」
「おはよ。ごめんね、お待たせ」
4月30日。
今日も寝坊したふりをして、理人が来てから家を出た。
満足気ににっこり笑った彼に、わたしを疑う様子はない。
ただ、何かあったときのために向坂くんと通話を繋ぎっぱなしにしておくことにした。
わたしの身に危険が迫ったら、きっと何とかしてくれるはず。
理人はわたしの記憶に気づいていないだろうから、朝の段階で殺されるとは思えないけれど念のためだ。
「ねぇ、理人。今日の放課後ちょっと寄り道しない?」
わたしは小首を傾げて尋ねた。
────昨晩考えて、基本に立ち戻ることにしたのだ。
“理人に殺されないようにする”。
それが、このループの中でのわたしの原動力だったはず。
小難しいことは考えずに、とにかく死を回避すればいい。



